はじめに:監査官の視点は「従業員」とは違います
HACCP(ハサップ)の制度化に伴い、保健所の立ち入り検査や、お取引先様(大手食品メーカーや流通業者)による二者監査の基準が年々厳しくなっています。
「毎日の清掃は徹底しているから大丈夫」「従業員の手洗いマニュアルも完備している」
そう自信を持って監査に臨んだにも関わらず、思いもよらない場所で「不適合」や「改善指摘」を受けてしまった…という経験はありませんか?
その原因の多くは、「視点のズレ」にあります。
現場で働く従業員の方々は、「今、汚れていないか(清掃状況)」を見ます。しかし、監査官が見ているのは「汚染が起きない構造か(リスク管理)」です。
「いくら掃除しても、構造的に汚れが溜まる場所があるなら、それは不適合です」というのが監査官のロジックです。
今回は、数多くの食品工場改修に携わってきた我々が、監査官が特に厳しくチェックするポイントを厳選し、「セルフ診断チェックリスト」としてまとめました。ぜひ印刷して、現場を回りながら確認してみてください。
【Part 1:床(Floor)】汚染リスクが最も高い「足元」の4項目

重力に従って全ての汚れが落ちてくる「床」は、工場内で最も汚染リスクが高い場所です。監査官が最初に、そして最も時間をかけてチェックするポイントです。
Check 1:水たまり(勾配不良)はできていないか?
作業終了後の清掃から数時間経っても、床に水たまりが残っている場所はありませんか?
なぜダメなのか:
水たまりは、細菌(特にリステリア菌などの湿潤環境を好む菌)の繁殖地そのものです。また、作業靴やフォークリフトのタイヤがその水を踏んで工場中に菌を広げる(交差汚染)原因になります。
監査官の視点:
「水切りワイパーで掻き出せばいい」という運用ルールでは認められません。「自然に水が流れる勾配(構造)」が求められます。
Check 2:コンクリートの劣化・ひび割れはないか?
ブラシで擦ると引っかかるようなひび割れ(クラック)や、コンクリート表面が削れて骨材(石)が露出している場所はありませんか?
なぜダメなのか:
ひび割れの内部には、食品残渣などの栄養分と水分が入り込みます。ここは物理的にブラシが届かないため、殺菌剤も効果を発揮しにくい「聖域」となり、バイオフィルムの温床になります。
監査官の視点:
「洗浄・殺菌が不可能な箇所がある」と判断されます。特に、食品を扱うエリアでのひび割れは即座に指摘対象となります。
Check 3:排水溝(グレーチング)周辺は健全か?
排水溝の蓋(グレーチング)を受ける縁の部分が欠けていたり、蓋の裏側に汚れがこびりついていたりしませんか?
なぜダメなのか:
排水溝周辺のコンクリートは、酸やアルカリ、熱湯の影響を受けやすく、最も劣化しやすい箇所です。縁が欠けて隙間ができると、そこからゴキブリやチョウバエなどの害虫が侵入します。
監査官の視点:
蓋を外して裏側やトラップ(封水)の状態まで確認されます。清掃しにくい形状や破損はマイナス評価です。
Check 4:壁と床の取り合い(巾木)はR加工されているか?
壁と床の境界線(入隅)が直角(90度)になっていませんか? あるいは、巾木が剥がれて隙間ができていませんか?
なぜダメなのか:
直角の隅には汚れが溜まりやすく、ブラシも届きにくいため、カビや細菌の発生源になります。
監査官の視点:
食品工場では、隅を曲線(R加工)にして清掃しやすくすることが基本原則(一般的衛生管理)です。隙間がある場合は、害虫の巣窟として指摘されます。
【Part 2:壁・天井(Wall & Ceiling)】異物混入を防ぐための4項目

壁や天井は、製品に対して「上」に位置するため、ここからの落下物は重大な異物混入事故に直結します。
Check 5:塗装の剥がれ・浮きはないか?
壁の塗装が膨れていたり、ガムテープを貼って剥がしたら塗膜も一緒についてくるような脆弱な状態ではありませんか?
なぜダメなのか:
劣化して浮いた塗膜は、いつ剥がれ落ちてもおかしくない「時限爆弾」です。剥がれた塗膜片がラインに落下したり、静電気で作業服に付着してクリーンルーム内に持ち込まれたりします。
監査官の視点:
「異物混入リスクが放置されている」と見なされます。特に食品と同系色(白やクリーム色)の塗膜片は発見が難しいため、厳しく見られます。
Check 6:カビ・藻の発生はないか?
北側の壁、結露しやすい窓際、空調の吹き出し口周辺などに、黒ずみや緑色の変色はありませんか?
なぜダメなのか:
カビ(真菌)は胞子を飛ばして空気中を漂い、製品を汚染します。また、カビ毒(マイコトキシン)のリスクもあります。
監査官の視点:
「空調管理や換気が不適切である証拠」と捉えられます。単に拭き取るだけでなく、結露対策や防カビ塗装などの根本対策が求められます。
Check 7:衝突痕・穴は放置されていないか?
台車やフォークリフトがぶつかって壁に穴が開き、そのまま放置されていませんか?
なぜダメなのか:
壁の中空部分は、ネズミや害虫にとって安全で快適な巣になります。穴はその入り口です。
監査官の視点:
防虫防鼠(IPM)の観点から不適合です。殺虫剤を撒く前に、まず「穴を塞ぐ」ことが求められます。
Check 8:天井の結露・サビはないか?
鉄骨の梁(はり)や配管からサビが発生していたり、水滴(結露)が落ちてきたりする場所はありませんか?
なぜダメなのか:
天井からの落下物は、下のラインにある製品を直撃します。結露水は空気中の汚れや菌を含んだ「汚染水」です。
監査官の視点:
製造ラインの真上にある場合は致命的です。即刻の改善(ラインの移動または天井の補修)を求められます。
【Part 3:見落としがちな盲点】意外と指摘される2項目

最後に、意識していないと見落としがちな、しかし監査ではよく指摘されるポイントです。
Check 9:照明器具の防護はされているか?
蛍光灯がむき出しになっていませんか?
なぜダメなのか:
万が一、蛍光灯が割れた際、ガラス片が広範囲に飛散し、製品に混入する大事故になります。
対策:
飛散防止カバーを取り付けるか、ガラスを使用しないLED照明への交換が必要です。
Check 10:「ガムテープ補修」の放置はないか?
壁の穴や床のひび割れを、ガムテープや養生テープで塞いだまま、数ヶ月放置していませんか?
なぜダメなのか:
テープの粘着剤は劣化して異物になりますし、テープの隙間は菌やカビの温床になります。応急処置が恒久対策になってしまっている状態はNGです。
監査官の視点:
「衛生管理に対する意識が低い」「計画的な修繕が行われていない」と判断されます。
もし「不適合」が見つかったら? 監査までの正しい対処法

セルフチェックの結果はいかがでしたか? もしチェックがついた項目があっても、焦る必要はありません。
最も良くないのは、「見なかったことにする」あるいは「その場しのぎで隠す」ことです。監査官はプロですから、隠そうとしても必ず見抜きます。
重要なのは、「リスクを認識し、改善に向けた計画を持っていること」です。
たとえ監査の日までに工事が間に合わなくても、
「この箇所の劣化は認識しています。現在、専門業者に見積もりを依頼しており、〇月には補修工事を行う計画です」
と、具体的な「改善計画書」や「見積書」を提示できれば、監査官の心証は全く違います。「管理された状態」と見なされ、猶予をもらえるケースも多いのです。
まとめ
建物の健康診断は、安全な食品製造の第一歩です。
今回のチェックリストで気になった箇所は、いわば工場の「虫歯」のようなものです。放置すればするほど悪化し、治療費(改修費)も高くなります。
「指摘される前に直したい」「自分たちでは判断がつかない箇所がある」
そのような場合は、ぜひ栄城建装にご相談ください。食品工場改修の経験豊富な私たちが、皆様に代わって現場を診断し、HACCP基準を満たすための最適な改修プランをご提案します。
最後までお読みいただきありがとうございました。

